『せかいいちうつくしいぼくの村』に出会う前

  • 2019.10.24 Thursday
  • 14:52

 

 1999年だった。私は19歳。妙な話ではあるがあの頃の私の目標は…
 
 18歳の秋から働き始めたレゲイバーの先輩店長が留学するために、なし崩し的に週6日働く店長のようになって、学校には当然行かなくなり、鞍馬口の気に入っていた風呂なしのアパート(京都一磁場がいいと思っていた)から、イスラエル人に占領されている丸太町のゲストハウスに引っ越した。1500円を払えば誰でも泊まれるゲストハウスには怪しい人たちが出入りして、刺激的だったが、私自身は学校にも行かず、夜な夜な朝帰りの無目的な日々を送っていた。
 店で絡まれて喧嘩をして手を切って、そのまま店を飛び出した。冬だけどTシャツに軍服だったので、手の血が腹に滲んで、木屋町を行く人が勘違いして悲鳴を上げた。唸るようにかき分けて家に帰って寝た。朝起きたら布団が血だらけで病院に言ったら5針縫う重傷だった。
 次の日、血だらけのままのシンクの説明に行ったら、オーナーからその場で解雇され、でもそれから客として通う事になった。友達は夜の街にしかいなかった。何だか面白くなくていつも凶暴な顔をしていたから女友達もいなかった。
 引っ越しをしたけど、なかなか世間に馴染めず、始めた居酒屋のバイトが終わる1時からまた飲みに行く日々が始まった。でも大学には行かず、このままバーテンになろうと思っていた秋になって、飲み屋で出会った占い師が予言したとおり初めて海外旅行に行った。
 チケットの行先はイスラマバード。目的地は当時内戦中の隣国のアフガニスタン。戦争を見に行くため、マスード・シャーに取材をするため。生れて初めての海外旅行であった。開放と緊張を合わせた妙な高揚感のまま、国境の町に行って、何回か麻薬を売りに声をかけてきた男に、つたない英語でアフガンのビザの手配を打診した。
 いちばん値段が手ごろで信用できそうな売人に連れられて、行った先は新聞社。編集長に会い50ドル払って特派員になって書類を作ってもらい、30ドルでビザを買った。(それはまがいもののシングルビザだったのに気が付いたのは入ってから)
 情報を集めると、内戦の凄惨な状況しか分からない。難民は町中にあふれていてタバコ一本で色んな話をしてくれる。悲惨な話にどんどん心が暗くなった。そのまま普通に生きていたら、まだしたいと思う楽しい事したら、何も危ない橋渡らなくても…暗くなって下を向きながら、国境を渡ろうかどうか思案していた。毎日タバコを3箱くらい吸って、唸るような音をたてる天井からぶら下がった扇風機を見ながら暗い部屋で過ごした。
 「アフガンの人たちを写真に撮って世に伝えたい」「戦争の悲惨さを伝えたい」そんなものはお題目で、本心は違う。仏教の勉強で当たり前のように話されている戦乱の世をこの目で見たい野次馬根性と、ジャーナリストになりたいという夢を叶える為。その為に、難民になったような人たちを写真に撮る。悲惨な写真を撮る。それは暴力ではないのか…自分の中で小さな良心が悲鳴をあげた。
 帰ってもまたぼろぼろの生活しかなく、先には想像もつかない世界しかなさそうで、ただたじろいで立ち止まった。その時に、無意識に日本で聞いていた歌うたいの歌詞を口ずさんでいた。SIONの『信号』という歌だった。
 「いま、信号は黄色 わたるも わたらぬも あんたしだい」
 45度に達するような灼熱のペシャワールの町でこの歌を口ずさみながら、どうしようか数日考えた。ある朝アメーバ赤痢でふらふらになった体を起こし、新聞社へ向かった。荷物を預かってもらって、お金を払う為に。
 次の日、約束通り30ドルでタクシーに乗り、国境の警備員を付けてカイバル峠を超えて国境を渡った。役人はシングルビザ(入ったら出られない片道用のビザ)に眉をひそめたが昼食前だったからかめんどくさそうにスタンプを押して顎をしゃくった。
 牛、ジープ、荷物を抱えた難民をかき分けながら数メートル幅の国境を渡った。
 アフガン側の役人は陽気にタバコを要求した。キャメルに火をつけて渡すと喜んで入館所まで一緒に来てくれた。
 「戦争はどこでやってるの?」
 そう聞くと彼は大げさに体を折って笑って、周りの山々を指差した。
 「あっちも、こっちも、どっちもだよ!」
 不安が消えていた。もう行くだけだった。

 

 

 

 

『せかいいいちうつくしいぼくの村』との出会い。

  • 2019.10.12 Saturday
  • 09:49

 よくよく人生は不思議だと思う。今、こうやって絵本に携わる人生を送ってはいるが、私自身は小さいときから絵本に親しんでいたわけではなかったし、大きくなってからも絵本は知っていたが親しいものではなかった。そのきっかけを辿っていくと、学生時代に通ったアフガニスタンの現場になり、その後に参加した水源確保事業になる。そして、人生をどう生きようかと迷っていた時、たまたま引き受けた仕事で、再度アフガニスタンに行った現場での絵本との出会いになる。
 改めてその時を思い出してみた。

 

 私は、かつてアフガニスタンで働いた経験を買われ、2003年.アフガニスタンの首都カブールで、日本の映画撮影隊と現地の政府や映画会社をつなぐコーディネーターのような仕事をしていた。
 滞在期間中、政府との交渉、必要物資の買いだし、ロケの先行、現場の設営など、町を歩き回ることが多かった。復興景気に沸く町は、物があふれ様々な人種が入り乱れにぎやかだが、その一方でたくさんの難民、戦争孤児たちが路上で生活していて、道行く人から施しを受けて命を繋いでいた。


 ある日、ロケをするために歩いている時、数人の孤児たちが本を囲んで車座に座っているのを見た。ふとその中心にある絵本が目に留まったので立ち止まり、真ん中の本に興味を持って近づいた。

 前年に暫定支配をしていたタリバーン政権がアメリカによって崩壊し、鎖国を解かれた親米政権は、原理主義的な宗教教育の代わりに、国際的な支援を基軸に据えた新しい教育政策に乗り出す。タリバーン政権時代には、映像、写真だけでなく絵の所持も描くことも禁止されていた為、人々は娯楽に飢えていた。子ども達も、各国が優先的に行った教育支援の一環で配布した、様々な絵本を貪るように読んだ。
 たくさんの絵本が子どもたちの手に渡ったが、それは一部の子どもだけだった。文字を読めない子、大量に発生した戦争孤児、仕事に明け暮れている子どもたち。そんな子供たちを対象に、日本のNGOが絵本作家と協力し絵本を配った。それも、各国が争って配った自国の支援をアピールするような甘い内容の絵本ではなく、アフガニスタンの少年を舞台にした純粋な絵本を。
 その絵本は、そのまま転売し換金することを想定されていたので、子ども達はそれを心から喜んだ。また支援の一環であったのにも関わらず、その絵本は教育的な視点ではなく、純粋な文学的な作品であった。そして文字も読めない子どもたちの間でも話題になった。

 近づいても気づかないのか必死で見ているその絵本を、私は彼らの頭越しに見た。柔らかい線、鮮やかな色彩、でもそれはどこか日本的な謙虚な色合いがあった。ローマ字で「JAPAN JR」の文字が目に入り、その絵本が日本の関わりで作られたものであることが分かった。
 絵を見るだけで物語の内容は分かるほど、その絵はアフガンの生活や人たちを性格に的確に描いていた。静かで繊細な人々の表情も語りかけてきそうな印象を受けた。
 少年が、お父さんと一緒に町に果物売りに行く。なかなか売れないけどあるきっかけで売れ始めて、親子は儲けたお金を使って一匹のひつじを買って、村へ帰る。夕方に皆が外に集まる平和なひと時。
淡々とした平和の話が、最後のページのくすみで、一瞬にしてなくなることが分った。
 私に気が付いた少年の一人が開口一番、嬉しそうにこう言った。
「これ日本人が描いたんでしょ?」
 支援という名のもとに、たくさんの物資が流れ込み、そのことで様々な混乱も発生したこの国の人々は、建前とは別に外国人に対して本心では心を開かない。国連や国際赤十字、NGOの華々しい活動も現地密着を強調しているが、住人達は大きなランドクルーザーで守られながらやってくるサングラスをかけた彼らを心から歓迎することはない。かつて、その現場で苦心して生きてきた私は特に子どもの持つ光と影をよく知っている。だが、その子の目を見たときに本当に日本人が好きなのだと分かった。それは「自分たちをここまで知ってくれている人」に対する彼らの精一杯の信頼、敬意が感じられた。
 私も、明るい声で「そうだ」と答え、その本を買い取らせてくれと提案した。そして、そこにいる全員にいきわたるように細かく札を数え、孤児たちが驚き、普段聞かないような声で感謝する程の値段で買い取った。


 ホテルに帰って、レストランでその本を開いて読んでみた。
 安い紙で作られてはいるが、きちんと製本され、アフガニスタンでは珍しい本物の本の造りだった。日本語では何て書いてあるかは分からないが、全てミミズが這ったようなペルシャ語表記に書き換えられている。その絵はくすんでいてもどこか懐かしく愛おしい感情を思い起こさせた。
 残飯を掃いて回っていた小学生高学年くらい掃除婦の少年が、最初のページを指さして、「パグマン」と叫んだ。
「これ、パグマン!」
 身振り手振りで、彼は、絵本に描かれた桃畑がひろがる丘の近くから来たと体中で私に伝えた。
 絵を見て自分の故郷を思い出した少年と、それを描いた日本人がいる。そのことが私を感動させた。
 胸があつくなって、私はその絵本を「君のだ」と彼に手渡した。
 彼は驚いた目でそれを受け取ると、ほうきを床に投げ出して胸に手を当てた。
「神のご加護を」
 たいそうにも私に(ドクターサーブ)と敬称をつけて祈った彼を「はやくいけ」主人の目を気遣って私は追い立てた。
 一冊の本が何人の子どもの心を癒したことだろう。こんなに直接的に子どもの心を動かしたものを間近で見たことが驚きだった。
 目で礼を言い、すぐに向こうに行ってしまったその少年を見送りながら、私は日本に帰ったら、絵本というものを読んでみようと思った。
 何から読もうか。とりあえず、あの緑色の絵本を探してみよう。
 頭の隅で作家の名前を思い出してノートに走り書きをした。

 

 「YUTAKA KOBAYASHI」


 その絵本が『せかいいちうつくしいぼくの村』だった。
 
 船長

 

 

後退する大人の美意識

  • 2019.03.19 Tuesday
  • 13:03

 

 「幼稚化」と書いて、あわてて、「幼児の方がまだましな意識を持っている」と思い直して「後退する」に書き換えました。

 世も末だと、最近思うことが多かったので、あまり驚きませんでしたが、最近、横浜に作られた「うんこミュージアム」というアミューズメント施設の記事を読んで、ただ嘆息しました。このような状況を喜び、はやし立てるモラルが確固として存在している状況、進んでいった経済至上主義の前には、大人のモラルや美意識も歯止めが利かなくなったということでしょうか。

 幼児が「うんこ」について興味を持つのは、それが大人社会でのタブーとして認識されているからです。大人が嫌がり怒るタブーを敢えて口にすることにより、社会ルールに逆らい、その場では大人と対等の立場を確保できる。そして、それが自分自身の生産物であるという自信と興味から、うんこに対しての愛着となる。いわば彼らの自立の道具としてのうんこの役割があります。

 それはいわば楽しさや探求とは関係のない、本能的な快楽に裏打ちされた興味です。それを大人が「子どもの純真な興味」とはき違え、またビジネスとの道具として、大人がタブーを標榜してしまっている…。

 ミュージアムには、若い女性もたくさん訪れているらしく、オブジェを持って写真を撮る女性たちの写真が載っています。「かわいい!」と思っているのでしょう。でもその姿はいずれ、歴史の教科書にも紹介されるほど滑稽であると本人たちは気づいていないようです。若い彼女たちは、まるで精神的な成熟を拒否し、大人に対しての反抗心を自らが後退することによって満たしているようにも映ります。彼女たちが大人と見出すのは、無感覚で生きざるを得ない大人像や、おそらく社会全体が持つ閉塞感、異常な高齢化社会に対する不勉強や偏見もあるように感じます。弱者が生きにくい世の中をことさら強調するニュースを浴びて成長した彼は当然のように経年に対しての嫌悪感を育てていったことでしょう。そしてそれは、自らの経年に対する拒否にもつながっている。

 経済的に劣る者、生産性のないものが、弱者となるゆがんだ社会の闇を、彼女たちは知らず知らずのうちに血肉にし、自らの美意識をゆがめても体現してしまったのかもしれません。その闇を作り上げたものこそ、最新技術でデコレーションすることにより、タブーも金に換えられると信じている、このゆがんだ社会であると思います。

 おそらくミュージアムは、大人も流れによって楽しむことで、子どもにとっては大人を困らせる道具としての意味を失い、ただの乾いた時代のあだ花的な場所になると思います。

 「うんこ」を使った勉強の本が売れた理由は、タブーに挑戦する子どもの自立心を捉え遊び心を刺激して勉強の負のイメージを隠したためだと思われます。それで勉強をするようになったと喜ぶのであれば、うんこが出てくる構造のドリルを与え続ける必要があります。 

タブーの基準がゆがもうが、子どもがドリルをする方がよろしいと、うんこを肯定して喜んで与えてしまった親は、子どもたちが今は表にでなくても様々な感性の弊害を背負ってしまったことには気が付いていません。子どもの美意識などまったく意にも留めず、表現が奇抜で面白い、大先生、とあがめられ多額の印税を手にした絵本作家。斜陽の出版業会をけん引しているという自信のもとに、莫大な金を儲けて喜んでいる出版社。彼らのなんら歴史的な贖罪も問われることはありませんし、社会的な信用は多くの人に支持された彼らの側にあります。これから数年以内に本を売り切り、何事もなかったようにまた売り切る絵本を作りつづけ、それがまたヒット作になっていくのでしょう。

 私たちが「美しいもの」にこだわりつつけているのは、彼らから見れば時代遅れなのかもしれません。品のない言葉が児童書業界にさえ氾濫する現状の中では、マイノリティーと言えます。またこの記事を読まれて、少なからず共感されるかたも、おそらく少数派に属されているのでしょう。

 今回の出来事は、そのまま絵本の業界の状況にもあてはまります。売れる物を如何に売るかがビジネスの原理ではありますが、扱っている物は、子どもの心を育てる大切な道具であるという認識が決定的に欠けている。「子どもの為を想って」「子どもが楽しめる」「面白い」その程度を考えるのは、あたかも「平和」を語ると同じく、踏まえておくべき当然の認識で、さらにその上、子どもと親の10年後20年後を見据えて作るのが本来の絵本であると思います。その意味で、あまりにも浅い文学性で、絵本をしたり顔で作っている編集者が多い。現在の消費的な絵本を一般化させた大きな責任は、このような感覚の摩耗にあると私は思います。面白い、楽しい、美しいは、個性によって違うからこそ、可能性もあるものですが、その共通する基準を育てていっている幼児に対して、大人は、先人としての責任があるのではないでしょうか。個々の共通点を見極め、全体的にあるべき方向へ導いていくのがこの時期の文学の役目であるのではないでしょうか。

 ある一部のクリエーターがしかけることで、絵本が何万冊も売れる。それは奇抜で、一部の有名人の「おもしろい」という軽い言葉に裏打ちされ、ネットで配信される「話題」という文句と共に、あたかも万人の支持を得ているように装飾されたコマーシャルを通して本来以上の価値をもった存在になる。その一方で、70年前から読み継がれているような幼い心を満たしてくれる宝物のような絵本が次々と絶版になっていく。

 絵本は、小さな人たちと共有できる唯一の文学です。だからこそ、社会の文化度を測る尺度にもなり得ます。この国の文化度を測るとすれば…

 一昔前なら「品がないことをするな」という言葉で一蹴されてきた美意識が、居住まいを正して説明しなければ理解されなくなった世の中。

 危機感を抱いているのは私だけでしょうか。

 小さい人たちが絵本を選ぶ基準はそれぞれです。「これがいい」「かわいい」と思うその気持ちに対して、「これは品がない」などという権利は誰にもありません。

 それがかけがえのないその子の個性なのですから。認め、励ましてあげるのが大人の役目です。ただ、その個性を作っているのは、大人が作り上げ、知らず知らずのうちに子ども影響を与え続けていた「環境」であることも忘れてはいけません。大人にはその環境を整えて、個性の形をつくっていく重大な責任があるのです。その責任をテレビや幼稚園に押し付けて、勝手に手にした興味と思うのは、長い目で見ればネグレクトにも等しい怠慢でもあります。その小さな角度の違いが、小学生の高学年になっても「ゾロリかマンガしか読まない」という小さな現象になって表れても、その理由を省みることもなかなかありません。その時期に、心を動かす文学作品に慣れ親しむことができた環境もたくさん存在したのにもかかわらず。その感覚が生きていくのに役に立っているかどうか、文学とは普段は役には立たないのかもしれませんが、魂を根底で支えていくものです。それすらも問われることもないかもしれません。

 

 文学を忘れた大人の後退。誰かが言葉を言い続けなくてはならないように思います。それが、私たちが引き継いだ職人としての誇りでもあります。

 私はまだあきらめない。この小さな絵本屋で何ができるのか。もう少しだけ抵抗を続けていきたいと思います。

 

                                                                                                                 蓮岡 修

 

 

 

 

 

 絵本屋きんだあらんど

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「SMOKE 」第四話(最終話)

  • 2018.12.15 Saturday
  • 14:44

 

 

何日も何日も船は航海をつづけ、徐々に懐かしい寒さが近づいてきました。

その間も夜になるとスモークはミシャの事ばかりを考えていました。

 

ある日目が覚めると船は北極の氷の中を走っていました。

そして船を止めていよいよ北極の地に辿り着きました。

 

スモークは嬉しくて大声で叫びながら船の上から氷の上に飛び降りました。

 

「ヒャホー!帰ってきたんだ。船長さん、教授さん、ありがとうね」

 

 スモークはそう言って、真っ白な氷の上を駆け出しました。

 

「あれ、今なんか声がしなかったかい」

 

 船を氷河にくくりつけていた水夫が、仲間の水夫に声をかけました。

仲間の水夫も何か煙の固まりのような物が走っていくのを見たような気がしましたが、

スモークの体は小さな竜巻に隠れてもう見えなくなっていました。

 

「あれ!スモーク、スモークじゃないか!」

 

 真っ白な氷の上を走ってくるスモークを見つけて、雪雲のお父さんのは叫びました。

二つの煙の固まりは互いに走り寄って、小さなスモークの方が

大きな煙の固まり(ちょうどお腹の部分)に飛び込み、

今度は上の方から飛び出しました。

 

「お父さん、ただいま!ぼくね、旅に出てたんだよ!」

 

「スモーク!お前ってやつは、父さんや母さんをすごく心配させて、

サンタさんに聞いても何も知らないって言うし。でも、帰ってきたんだな、よかった。

さあ、こっちにおいで、一体連絡もしないで今までどこにいたんだ、こんなに長い間!」

 

 お父さんは、スモークの耳をつかんで嬉しそうに、でも怖い顔を見せて言いました。

 

「それよりも、父さん大変なんだ!助けてほしい人達がいるんだよ。

だから、僕、大好きな友達にも最後の挨拶もしないで

本当に急いで帰ってきたんだから。

急がないとみんな食べ物がなくなっちゃって…」

 

 スモークはミシャや困っている両親のことを急に思い出して

声をあげて泣き出してしまいました。

お父さんは、スモークを氷河の上に立たせると、顔を近づけて言いました。

 

「スモーク泣くな、何があったのか話してみなさい。

助けて欲しい人達って誰の事だい?」

 

 スモークは、今まであった事や見た事をお父さんに話して聞かせました。

すべて聞き終わると、お父さんはしばらく黙って考えていましたが、

最後には大きくうなずいてスモークに言いました。

 

「よし、上手くいくか分からないけど、

お前が信じた人達のために何とかやってみよう」

 そう言うと、スモークを抱き寄せました。

 

 

 その年、日照りが続いて雨がまったく降らなかったその地方で、

気象学上信じられない事が起きました。

真夏の一年で一番暑い時期のある日、朝になって人々が目が覚めドアを開けたら、

外になんと雪が降っていたのです。

それも、ここの地方で冬になったら降る牡丹雪ではなくて、

見た事ないようなサラサラの氷のような雪でした。

 

多くの人達が夢を見ているのだと思ってもう一度ベットの中に戻ったと言います。

でもしばらくしてもう一度目が覚めて窓の外にまだ雪が降っているのを見て、

それが夢ではない事が分かると、

人々はひざまずいて思いつく限りの称賛の言葉で神への祈りを捧げたのでした。

 

雪はすぐに融けて水になり、渇いた大地を潤し、

土地はすぐに元のように作物が作れるような状態に戻りました。

そして秋に収穫が出来る野菜の植え付けに間に合って、

その年の秋は例年のように作物が収穫できたのです。

 

雪のおかげでミシャの家も麦や野菜が育って、何とか一家は助かりました。

そして前よりいっそう信心深くなり、

また明るい会話が交わされるようになりました。

 

でも、何故かミシャだけは、いつも沈んだ顔をしていました。

お父さんやお母さんも心配して何があったのか聞こうとしましたが、

ミシャはただ首を横に振るばかり。

 

ミシャは、あの日学校から帰ってきてスモークからの手紙を見つけてから、

ずっと悲しい気持ちが心の中を去りませんでした。

 

“スモークはなんで急にいなくなったんだ”“黙って行ってしまうなんてひどいよ!”

 

ミシャはあれから何度も夜中に起きて暖炉の中から煙突をのぞきこみました。

 

「スモーク・・・いないの?」

 

でもスモークは降りてくる事はなく、

しかたなく一人だけでスモークがまるでいるかのようにして遊ぶのでした。

 

その年のクリスマス。ミシャの家では貧しいながらもご馳走がならんで、

皆で楽しくクリスマスを祝いました。

今年の嬉しい出来事と言えば、何といっても真夏に雪が降ったことです。

あの雪によってこの地方一帯は日照りや旱魃から救われたのです。

 

お父さんの掛け声で、皆で神様にもう一度感謝の言葉をささげました。

 

「ミシャのこの年の一番の出来事はなんだった?」

 

 お父さんの言葉にミシャはおもわずこう答えました。

 

「スモークと遊んだ…」

 

「スモークってどのお友達?」

 

 お母さんが不思議そうに聞くと、ミシャは急いで口をつぐみ、

いつもの寂しげな表情に戻りました。

そんなミシャを心配そうにお父さんとお母さんは見つめました。

 

 その夜、ミシャはスモークの夢を見ました。

ミシャとスモークは、真っ白な雪の上で思いっきりぶつかりっこしています。

ミシャがぶつかっていくとスモークはミシャの体を思いっきり上に放り上げて、

下でミシャを受け止めます。

スモークの体はふわふわで暖かくて、

どんなに強く叩いたり押したりしてもすぐに優しくはじき返されます。

でもスモークにはちゃんと腕も手もあるので、ミシャをつかんで押し倒す事も出来ます。

二人は何度もぶつかって、疲れるとお互いの手を枕に昼寝を始めました…。

 

 次の朝、目が覚ましたミシャは、昨日の夜に枕元にぶら下げておいた

大きな靴下の中に何か入っているのを見つけました。

そして、すぐにベットから飛び起きて枕元の靴下を解いて、

中の物を取り出してみて、思わず声を上げました。

 

 靴下の中には二つのプレゼントが入っていました。

一つはミシャが学校で今年から使うようになる色鉛筆のセットと持ち運びが出来る画用紙帳。

そしてもう一つはフワフワの羽毛のような毛で作られた人形で、

胸のところに大きく『スモーク』と刺繍がされていました。

 

そして、そのスモークそっくりな人形は小さな手紙を持っていました。

広げてみるとそこには、何度も練習したきちんとした字でこう書かれていました。

 

  ミシャへ

 

 ぼくたちはずっといっしょだからね

 

       スモーク

 

 

ミシャは、何度も何度もその人形を抱きしめて、キスをしました。

そしてその日から、ミシャの枕元には、お父さんたちが

プレゼントした覚えのない人形がミシャと寄り添うように寝るようになりました。

お父さんたちが

「誰にもらったの?」と聞くと、

ミシャは心のそこから嬉しそうにこう答えるのでした。

 

「スモークからだよ!」

 

 そう言ってほおずりした人形は、

嬉しそうにミシャに笑いかけているようでした。

 そしてその後二人はずっとずっと一緒に過ごしました。

 

 

 あなたのまわりにも、スモークはいるかな?

 

 

          end

 

 

 

JUGEMテーマ:児童文学

「SMOKE 」第三話

  • 2018.12.10 Monday
  • 11:52

JUGEMテーマ:児童文学

 

 

 

「あっ」

 

スモークはまぶしさに声を上げて目をふさぎました。

 

もう半年以上も外に出ていなかったのです。

それからゆっくりと目が光に慣れるのを待ってから、久しぶりの昼間の世界を見ました。

 

そこにはカラカラに乾いてひび割れ、所々に痩せた草が生えている畑、

並んで立っている木も枯れて今にも倒れそうなくらい弱っています。

 

スモークは「早くしないと」と言い聞かせ、人が来ないのを確かめると、

町の方へと急いで向かって転がりはじめました。

町まで行く途中に大風で飛ばされそうになったり犬に追いかけられたり、

そのたびにミシャのことを思い出してふんばりました。

 

そしてたまたま通りかかった馬車の後ろにつかまって、

そのまま町の中にまで運んでもらいました。

 

初めて見る人の住む町。変な帽子をかぶった男や、

大きなスカートをはいた女性が忙しそうに歩き回っていて、

鉄の大きな箱が車輪で動いています。スモークは驚いて立ち尽くしていました。

それでも馬車から離れて町の中を転がっていると、

前から女性が歩いて来た女性が突然大声をあげました。

 

「きゃー煙よ、火事だわ!」

 

「えっ、違います」

 

 スモークの声にその女性はますます金切声をあげました。

 

「煙がしゃべったあ!」

 

 スモークは慌てて逃げ出しました。

でも道を走ると、皆が目をまん丸にして同じように叫び声をあげます。

 

「わー、煙がこっちにもやってきた!はやく火を消せ」

 

「消防車をよべ」

 

 馬は驚いて反対側に走り、

突然止まった車に後ろの車が追突して町の通りは大騒ぎ。

 

 困ったスモークが通りをあちこちと走っているとさっきの鉄の箱が

後ろから煙を出しながら横切っていきます。

 

「そうだ!」

 

 スモークは箱の後ろに飛び乗りました。

すると、煙でスモークの体が隠れて、

皆からはすこし煙が多い車にしか見えなくなりました。

 

「やっと火事が消えたようだ」

 町の人たちは、安心しましたが、

車の運転手だけは後ろを見ながら頭をひねりました。

 

「あれ、エンジンの調子がおかしいのかな?煙がいつもよりでているぞ」

 運転手は点検をしたいと思いましたが、

今日は大事なお客さんを乗せているので黙ったまま走り続けました。

車はスモークを後ろに乗せたまま町を過ぎていきました。

 

 着いたのは船が沢山とまっている大きな港でした。

そして車に乗っていた大事なお客と言うのは、

これから北極探検に出かける大学の教授だったのでした。

 大きなめがねをかけた教授は車を降りると、

早速手にもっていた探検用の双眼鏡を、あちこちに向けて言いました。

 

「北極行きの船はどれかね?」

 

 すぐに助手が答えます。

「あの、『さざなみ号』と書いてある中型の船です」

 

 長い間車の後ろにつかまっていてとても疲れたスモークは、

車が止まると横になって休んでいましたが、

二人の会話を聞いて喜んで飛び上がりました。

 

「あれ、エンジンを止めても煙が出ている!おかしいぞ」

 

 スモークを見て運転手があわてて駆けつけてきたので、

スモークは歩き出した教授の後ろに急いでついて行きました。

 でも、ありがたい事に教授は大のタバコ好き。

いつもパイプの煙をもくもく吐き出しています。

スモークが後ろを歩くと、

教授のパイプの煙がいつもより多めに漂っているように見えます。

 

「教授、このタバコは煙が少し多いようですが」

 後ろを歩く助手が、手でスモークをはたきながら咳き込んでそう言うと、

教授は首をひねりながら謝りました。

 

「あれ?おかしいな、すまん、すまん、

最近タバコの銘柄を変えたんだよ。でもこんなに煙が出るとは…」   

 

 船に乗り込む時、船長さんはモクモクと動いている煙を見て

「発火物禁止!」

 

と大声で注意しようとしましたが、その前を行く教授がパイプを吸ってるのを見て、

前を通る時に大きな咳払いを数回するだけにしました。

 

「ん、ゴホ、ゴホ!」

 

「あっ、ごめんなさい。煙が多めのタバコのようで…」

 

 教授は後ろについてくる煙を見ながら、

『変だなあ』と思いながらも申し訳なさそうに頭を下げて船に乗り込みました。

 

 一緒に船に乗り込んだスモークは心の中で教授に向かって

“ありがとう”と言って頭を下げて、

誰にも見つからないように煙突の上に登りました。

煙突からは黒い煙がいつでも出ているので、

ここなら何があっても見つかる事はありません!

 

スモークは安心して煙突の中で休みながら、ミシャのことを考えました。

 

“今頃手紙を見つけて読んでいるのかな”

 

“今日は一人で、マッチ棒倒しをするのかな”

 

“ぼくのこと怒っていないといいな”

 

 

 でもしばらくすると、懐かしい北極のことを思い出し始めました。

 

“もうすぐ皆に会えるんだ!皆びっくりするだろうな。

だってずっと長い旅にでていたんだから。

喜んでくれるかな、しかられても、でもいいかな。

またおかあさんと一緒にお風呂に入って、その前にお父さんに…”

 

スモークはそのまま眠りに着きました。

 


「SMOKE 」第二話

  • 2018.12.08 Saturday
  • 11:23

JUGEMテーマ:児童文学

 

 

二人は昼間の間は両親が驚くといけないので会わないで、

夜になって彼らが寝静まるのを待ってから、そっと暖炉の前で落ち合うことにしていました。

 

「スモーク、ぼくだよ」

 

 ミシャの小さな声に、スモークが暖炉から顔を出します。

 

「もう、まちくたびれたよ、ミシャ」

 

 それからスモークは煙の体をそっと丸めて床に転がり落ち、ミシャは両手で受け止めます。

それから二人は声を立てないように気をつけて、積み木遊びや、

マッチ棒倒し、それから大好きな取っ組み合いを始めます。

 

「いくよ スモーク」

「いいよ 思いっきりぶつかっといで」

 

スモークの体はフワフワ。ミシャは思いっきりぶつかっていってもポンとはじき返されてしまいます。

それに体の上に乗ると、まるで空を飛んでいるようです。

 両親は昼間の力仕事で疲れていて夜中に目が覚めることはなく、

二人はじっくり数時間遊ぶと、しぶしぶお別れをして、ミシャはベットにスモークは煙突に帰っていきました。

 

「ミシャは今、学校でかけっこをしているな」「はやく帰ってこないかな」

 

スモークは昼間煙突にいる時も、ミシャと遊ぶ事ばかり考えて、

寂しいと思うことが少なくなりました。ミシャの方も学校で今日の夜にスモークとどんな話をして、

何の遊びをするのか考えるのが楽しみになりました。

 

 冬が過ぎて、春が来て、そして煙突が使われなくなる夏が来ても、

二人は毎晩、落ち合って遊んだり話をしたりしました。

でも、その頃になると、暖炉の外から聞こえる家族の話が少しずつ少なくなってきたのに気づきました。

ミシャもだんだん元気がなくなってきているようです。

ある夜、スモークはミシャに何か心配事があるのか尋ねてみました。

 ミシャはため息交じりに答えました。

 

「最近、お父さんたちが変なんだ。あまり笑わなくなったし、ご飯も少なくなったんだ」

 

ミシャのうちでは、ご飯もパンと薄いスープだけ、

ミシャも最近、体が少し痩せてきたみたいです。

それに、前は貧しくとも楽しそうだったのに、最近何かを心配して暮らしているように感じます。

 

 そう言えばスモークは少し前に渡り鳥が話していた事を思いだしました。

 

『ここの地方は、雨が今年に入ってから一滴も降っていないらしいですよ。

川も枯れかけていて、作物も育たないから住んでた鳥たちも引越しを始めてます。

でも枯れかけた湖で魚が捕りやすくなっているのはありがたいですな。ほんと』

 

 部屋の床の隅の小麦もだいぶ減ってきているのに、新しいのがまだ入ってきていません。

お父さんたちは雨が降らなかったら秋には食べるものがなくなってしまうのが

心配で毎日暗い顔をしていたのです。

 

スモークはミシャと別れて煙突の中に帰ると、煙突から見える夜空を眺めて考えました。

四角い空には星がキラキラと輝いて見えます。

それを見ていると北極で家族みんなで見ていたきれいなオーロラや流れ星を思い出しました。

 

「おとうさんやおかあさんはどうしてるんだろう」

スモークは急にさびしくなってきました。

 

「でも、ミシャとミシャの家族は今ほんとうに大変なんだ」

 

スモークはミシャのために何とかしたいと思いましたが、

食べ物の事を考えたことなど今まで考えたこともありません。

でもスモークは一生懸命考え始めました。

 

「えーと、食べ物がないっていうのは雨がないからで、あの、雨は水でできていて・・・」

一晩中考えて、煙突の空が明るみかけた頃、やっと良い考えを思いつきました。

「北極にいるお父さんに来てもらえばいいんだ!」

 

スモークのお父さんは雪雲を自由に動かせるのできっと何とかしてくれるはずです。

でも、北極に一人で帰るのはどうしたらいいのか分かりません。

だからといってサンタさんがもう一度通るのを待っていたら手遅れになります。

色々考えてスモークはすぐに出発することにしました。            

 

ミシャは学校に行っていて夕方まで帰ってこないので、スモークは煙突の炭を使って手紙を書きました。

 

 

 

 ミシャへ

 

 しばらく、でかけてきます。

 ミシャにあえてよかったです。

 ずっとともだち、わすれません。

 ありがとう

   スモーク

 

 

 

 スモークは誰もいない部屋に降りたち、二人だけの秘密の場所に手紙を隠しました。

そして一度だけ部屋の中を振り返り「ありがとう」と言うと、思い切ってドアを開け外にでました。

 

 

 

創作童話『SMOKE』の絵を募集中!

  • 2018.12.02 Sunday
  • 16:52

こんにちは、きんだあらんどです。

 

実は、当店の店長蓮岡は、創作童話をひそかに書いています。

その中で、いまの時期にぴったりのクリスマスのお話があります。

不思議な煙の妖精スモークが登場しますよ。


これから数回にわけて、お話を更新していきますので、

よろしければご覧ください。

『SMOKE』作:蓮岡修
http://sencho-blog.jugem.jp/?eid=1

 

また、この童話に絵をつけて下さる小学校6年生位までの子どもたちを募集しています!

お話を読んで、さし絵をつけてみてくださいね。

見事えらばれた方には、素敵なプレゼント(只今検討中)と、ホームページにてご紹介いたします!

 

【応募方法】
描いた絵をスキャンして、以下のメールアドレスまでお送りください。

または、お店にお持ち頂いてもOKです!

 

kinderland.event@gmail.com

 

みなさまのご応募をお待ちしています!

 

 

「SMOKE 」第一話

  • 2018.12.02 Sunday
  • 16:18

スモークは今日も煙突の中で夢を見ていました。

 

煙突の上から少しだけ四角い空の光が入ってきて、

それがスモークをますます周りから浮き上がらせて見せています。

スモークは今日も生まれた北極の空を

自由に飛んでいたことを思い出しているのでした。

 

北極で生まれた煙の妖精スモークが、

何故こんなところに住んでいるのかというと、

そもそもあの有名なおじさんの勘違いが原因でした。

 

あのおじさんというのは、煙突と北極の人といえば…

そうサンタクロースのおじさんです。

 

サンタクロースは去年のクリスマスに、

たまたま工房で遊んで隠れていた煙の妖精のスモークを

ほかのおもちゃと一緒に袋に詰めこんで

そのままソリに乗って出発したのです。 

そしてこの家の煙突を急いで降りる途中に半分開いていた袋から

スモークを落としてそのまま先に行ってしまったのでした。

 

長い間袋の中でおもちゃと一緒にいたスモークは、

煙突の中の懐かしい煙の匂いに安心してそのまま眠ってしまって、

気がついたときにはもうサンタクロースは遠い国の空を飛んでいたのです。

スモークは来年またサンタクロースがこの煙突を通る時まで、

ここで待っていなければならなくなったのでした。

 

でも、スモークは時間が経つうちにこの家と

この家の煙突がとても気に入り始めました。

 

煙突は毎週きちんと掃除されていてクモの巣もないし、

何よりここに住んでいる家族が暖炉の前で話すことは、いつも暖かい話ばかりで、

スモークは毎晩彼らの話を聞くのを楽しみにしていました。

家に住むのは貧しい百姓の夫婦と小学生になったばかりの息子でした。

 

夫婦は朝早くから夕方遅くまで、牛を使って土を耕したり、

作物を植えたり忙しく働き、

息子の方も、両親に負けないようにとまじめに勉強をして、

夜にはもらった教科書をたどたどしく二人に読んで聞かせるのでした。

 

煙突に住み始めてしばらくしたある晩、

皆が寝静まったのを確かめてから、

スモークは初めて家の中を覗いてみました。

 

四角い暖炉の中から見えたのは、テーブルと椅子と木の戸棚、

床の隅に小麦粉と野菜の入った袋が2つあるだけの質素な部屋です。

スモークは誰もいないのをよく確かめると

暖炉から部屋の中へ入ってみました。

奥の部屋からは家族の寝息が聞こえてきます。

スモークは安心して、久しぶりに背中をうんと反らせて伸びをしてみました。

 

 ウーン・・・

「君だれ?」

 

 突然言われて振り返るとパジャマを着た息子が立っていました。

 スモークは初めて人間の子供を見たので驚いて言葉が出ませんでした。

でもこの子のことはいつも知っています。

だから出来るだけ落ち着いて返事をしました。

 

「あの・・ぼくは スモーク」

 

スモークは心の中でこう考えました。

『この子はぼくとおないくらいかな?』。

 

息子の方もトイレに行こうと思ったら、

暖炉の前で煙が動いていて、その煙が自分に話しかけてきたので、

まだ夢を見ているのかと思いました。

でも、さっきその声は自分と同じくらいの子供の声、

それも優しく親しみやすそうです。

 

二人ともしばらくお互いを見合った後、

『できたら仲良しになりたいな』

と心の中で同じように考えました。

 

「君は?」

「ぼくの名前はミシャ」

二人はお互いの顔を見て笑いました。